プロジェクト目標(Project Purpose)
ネパール大震災で被災した障害者、または新たに障害者となった人たちが地域で自立生活を送る上で必要な支援を、ネパールの障害当事者及び政府機関等から受け、生きる希望を取り戻す。
成果1:障害者のエンパワメントに関する知識・技術の向上
ネパールの障害当事者リーダーの、障害者のエンパワメント(ピア・カウンセリング、自立生活プログラム)を実施する上で必要な知識・技術が向上する。
成果2:被災障害者のエンパワメントと自立生活の基盤整備。インクルーシブ社会の実現に向けた支援。
ネパール大震災で被災した障害者または新たに障害者となった人たちが、障害当事者リーダーによるエンパワメント研修に参加し、その一部が介助者サービス等を受けて地域で自立生活を実践する体制が整い、誰もが社会参加し自己実現を図ることができるインクルーシブ社会の実現、又、社会の構成員となる。
成果3:震災の復興プロセスにおける「障害(者)の課題」の主流化
ネパール大震災の復興プロセスにおいて「障害(者)の課題」が顕在化され、ネパール国政府の復興計画・政策・プログラム等に「障害(者)の課題」を加えるために公式な場において議論がなされる。
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1-1 協力の背景と概要 ネパールでは約2,650万の人口のうち1.6%が何らかの障害を持つと言われているが、山岳地の地理的・経済的に困難な状況、障害者に対する差別や偏見などが根強いこと、また障害者が受けられる福祉・保険・教育・就労等のサービスも非常に限られることなどから、障害者の社会参加は依然として進んでいないのが現状である。 このような困難な状況下、日本のダスキン「アジア太平洋障害者リーダー育成事業」に参加した障害当事者リーダーが中心となり、2006年、首都カトマンズにネパール初となる障害者 自立生活センター(以下CIL)「CILカトマンズ」を設立し、障害者のエンパワメントと権利擁護、アドボカシー活動等を推進してきた。2009年にはポカラにも「自立生活協会ネパール」が設立され、そこからもダスキン研修生が輩出されるなど、ネパール国内のダスキン元研修生が連携しつつ、国内のリソースを活用し、また日本各地のCILから技術的・資金的支援を受けながら、国内の障害当事者運動を活発に展開してきた。提案団体でも、ポカラのダスキン研修生を一時期受入れたことが契機となり、2014年から全国自立生活センター協議会(JIL)九州ブロックのCILを中心に自立生活協会ネパールの障害当事者運動に対し、資金援助を開始していた。そんな矢先、2015年4月25日にネパール大震災が襲い、カトマンズを含む14の郡で甚大な被害がもたらされた。障害者のうち36名が亡くなり、2,000人が被災したと言われているほか、全体で22,000人を超える負傷者のうち、600人が脊椎損傷を負ったとされる。このような被災者は、新たに重度障害を負い、これなでの生活が成り立たなくなるだけでなく、差別や偏見の強い社会で障害者となった自分を受容し、新しい人生を踏み出していくという、非常に困難なプロセスを伴う点で、特別な支援・介入が必要となる。ここでは、障害のある人同士がお互いに話し合い励まし合うことで相互をエンパワメントする手法であるピア・カウンセリングや、障害をもった人が日常生活の様々な場面で必要となる技術や体験的に獲得するとともに、社会的障壁の除去のための取り組みを実践するために、同じく障害を持つピアの力を借りて実施する自立生活プログラム)などが非常に有効である。2005年パキスタン北部地震の際の障害当事者による復興支援でも、特に脊椎損傷を負った被災者を対象に、ラホールのCILマイルストーンの障害当事者によりピア・カウンセリングやILPが実施され、被災障害者のエンパワメントや地域生活への円滑な移行につながるなど、その効果が示されている。障がいのあるピアによる支援は、専門家(障害のない医療従事者等)による指導と異なり、実際の地域生活における実践に根ざしている点で、より具体的で、目で見てわかりやすい利点があるほか、人生の半ばで突如脊椎損傷を負った人の苦悩や困難を心から分かち合えるのは当事者が最適任であることは説明の余地がない。 CILカトマンズ、CILラリトプル、ポカラの自立生活協会ネパールでは、現在でも障害者のニーズに応じてピア・カウンセリング、ILPを実施しているものの、実施する上で必ずぶつかる壁(困難な事例に対峙する際のピア・カウンセラーとしての技量、自らの生活形態と異なる人のILPにおけるアイデア・創意工夫の能力等)を乗り越えるためには、継続的な研修受講や技術による知識・技術の向上が欠かせないため、今回の震災の被災障害者に対する支援を実施する上で、東日本大震災における被災障害者支援をはじめとする長年の経験の蓄積のある本邦からの技術支援が必要である。今回のネパール大震災で各カウンターパートの障害当事者らは、自らも被災し仮設の避難所で暮らすことになったにも関わらず、より被害が大きい地区で被災した障害者や、新たに障害を負った人たちに対する緊急援助を、震災直後より自主的に開始した。これに共感した日本全国の障害当事者らも街頭募金等で資金を集め、1ヶ月で200万円を超える募金を、JILを通じて現地に送り、救援物資等の購入等に充てることができた。今後も復興に向け長期的な支援が必要となってくるため、提案団体はJILやDPIを通じて日本全国のCILと協働しながら長期的支援の方向性を検討していく予定ではあるが、残念なことに日本国内ではネパール大震災への関心が次第に薄れてきていることから、募金による資金調達の継続には限界がある。また、他の開発途上国同様、ネパールでも、平常時より「障害(者)の課題」は開発課題の主流から外れており、障害当事者運動ではアドボカシー活動等を通じて、開発プロセスに障害当事者が参加できるよう求めていた。今回の震災の復興プロセスにおいても、障害当事者組織がドナー会議等でアドボカシー・ロビー活動を活発に実施しているものの、インフラ等の復興が最優先される中、被災障害者の課題は隅に置かれてしまう傾向にある。仮に当事業が実施されない場合でも、ネパールの障害当事者は被災障害者に対する支援を継続する予定ではあるが、資金的困難から支援規模(受益者)が極めて限定されるほか、支援にかかる技術力不足もあるため、本事業で日本の経験を踏まえた技術的支援を行い、効果的・効率的な支援を広く実施することにより、被災障害者の困難な状況の早期解決につなげたい。また、当事業が実施され、アドボカシー活動を通じて震災復興における被災障害者の課題に焦点が当たり、復興計画・政策・プログラム等を議論するプロセスで「障害(者)の課題」も議論されることとなれば、本事業終了後も、ネパール政府または他の援助機関により、別の形で被災障害者に対する支援が継続されることが期待できる。また、今後ネパール国内において発生するかもしれない災害時においても、今回の事例が前例となり、より容易に「障害(者)の課題」に対する取り組みが進められることにより、災害時に最も脆弱な状況に置かれる障害者の災害リスクを少しでも軽減できるようになると想定される。同時に、本事業の実施を通じて各カウンターパートのプロジェクト実施能力が向上するとともに、JICA事業を実施することにより社会的な信頼性も高まり、今後各カウンターパートが政府または他の援助機関の援助を獲得できる機会自体が向上することが期待できる本事業による協力を通じて、災害大国である日本からの技術支援を伴った、ネパールにおける震災復興時の障害当事者による被災障害者のエンパワメントと主流化の取り組み手法がモデルケースとして示されることにより、今後ネパールだけでなく他の開発途上国において災害が発生した際にも、本事業で適用された手法を活用・応用した障害当事者主体の復興支援の展開が可能になることが期待される。また、本事業の活動実施のため日本の障害当事者リーダーや若手障害当事者がネパールを訪問することで、提案団体であるCILにとって貴重な学びの機会が提供されることも追記したい。特に、ネパールのような開発途上国では、障害者福祉サービスがほとんど行き届いていない分、若手の障害当事者リーダーの活躍や、地域コミュニティのつながりが強く地域資源を最大限活用している点などは、障害福祉サービスの地域間格差が大きく若手の人材不足に悩む日本のCILにとっても非常に参考になる。
2 協力内容 (1)上位目標 ネパール国内において今後発生するかもしれない災害の復興プロセスにおいて、「障害(者)の課題」に対する取り組みがより容易に進められる。
(2)プロジェクト目標 ネパール大震災で被災した障害者または新たに障害者となった人たちが、地域で自立生活を送る上で必要な支援を、ネパールの障害当事者及び政府機関等から受け、生きる希望を取り戻す。
(3)アウトプット 成果1 【障害者のエンパワメントに関する知識・技術の向上】 ・ネパールの障害当事者リーダーの、障害者のエンパワメント(ピア・カウンセリング、自立生活プログラム)を実施する上で必要な知識・技術が向上する。
成果2 【被災障害者のエンパワメントと自立生活の基盤整備。インクルーシブ社会の実現に向けた支援】 ・ネパール大震災で被災した障害者または新たに障害者となった人たちが、障害当事者リーダーによりエンパワメント研修に参加し、その一部が介助者サービス等を受けて地域で自立生活を実践する体制が整い、誰もが社会参加し自己実現を図ることができるインクルーシブ社会の実現、又、社会の構成員となる。
成果3 【震災の復興プロセスにおける「障害(者)の課題」の主流化】 ・ネパール大震災の復興プロセスにおいて「障害(者)の課題」が顕在化され、ネパール国政府の復興計画・施策・プログラム等に「障害(者)の課題」を加えるために公式な場において議論がなされる。
(4)活動 成果1 【障害者のエンパワメントに関する知識・技術の向上】 1-1 日本の障害当事者リーダーがネパールの障害当事者リーダー15名程に対し、エンパワメント等に関して直接指導・助言を行う。 1-2 障害者のエンパワメントに関する公開セミナーを実施し、日本の障害当事者リーダーが直接関係者の啓発活動を行い、ネパールの障害当事者リーダーに啓発手法、ファンディング等のモデルを示す。 1-3 ネパールの障害当事者リーダーが、他の障害当事者20名程度の育成研修(リーダーシップ養成研修、マネジメント研修)を実施する。 1-4 【インターンシップ交換プログラム】ネパールの若手障害当事者リーダー2名の人材育成研修を、日本で実施する。 1-5 【インターンシップ交換プログラム】日本の若手障害当事者リーダー2名の人材育成研修を、ネパールで実施する。
成果2 【被災障害者のエンパワメントと自立生活の基盤整備。インクルーシブ社会の実現に向けた支援】 2-1 大震災で被災した障害者または新たに障害者となった人の中から、エンパワメント研修への参加者60名を選定する。 2-2 選定された障害者のエンパワメント研修(ピア・カウンセリング、ILP)を随時実施する。 2-3 関心のある大学生等の中から介助者候補20名を選定し、介助者研修を実施する。 2-4 養成された介助者が、エンパワメント研修参加者の一部に介助者サービスを提供する。(パール政府との連携) 2-5 自立生活に必要な福祉機器・日常生活用具等の選定と、住宅改修等に関する助言を行う。(他機関との連携) 2-6 ネパール政府との連携がとれ、エンパワメント研修等にエンパワメント研修等に参加することで自力がつく。
成果3 【震災の復興プロセスにおける「障害(者)の課題」の主流化】 3-1 アドボカシー活動のための啓発素材(プレゼンテーション、ビデオ、パンフレット等)を開発する。 3-2 啓発素材を用いてアドボカシー活動を実施する。 3-3 日本の障害当事者リーダーが直接アドボカシー活動を行い、後押しをする。
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平成29(2017)年1月 ネパール現地訪問
1月の半ばから約2週間、プロジェクトとしては第一回目のネパールの現地訪問。
訪問先は首都・カトゥマンドゥ、第二の都市・ポカラ。
それぞれ、政府の省庁や地方自治体の役所等を訪問し、今後のプロジェクトの進め方や将来の展望について説明。
また、カトゥマンドゥとポカラにある自立生活センターをそれぞれ訪問し、今後プロジェクトがどのように進行していくのか、研修の内容の進め方や、関係機関との連携の方法なども確認し説明を行った。
平成29(2017)年10月 ネパール現地訪問
10月9日より2週間程度、第二回ネパール現地訪問を行った。
今回の目的は12月の日本国内での研修で受け入れをする研修生の選抜、地震被災地の見学ならびに被災者との面談、センターとの打ち合わせ、ポカラの自立生活体験室の視察等を実施。
また、日本大使館とJICAネパールにプロジェクトの進行具合と、今後の進め方について報告を行った。
≪ カトゥマンドゥでのワークショップ ≫
≪ ポカラ自立生活体験室 ≫
平成30(2018)年8月 ネパール現地訪問
平成31(2019)年4月 ネパール現地訪問
平成31(2019)年8月 ネパール現地訪問