JICA草の根技術協力事業    無事に終了します

障害当事者による震災被災障害者のエンパワメントと主流化

プロジェクト目標Project Purpose

 

ネパール大震災で被災した障害者、または新たに障害者となった人たちが地域で自立生活を送る上で必要な支援を、ネパールの障害当事者及び政府機関等から受け、生きる希望を取り戻す。

 

成果1:障害者のエンパワメントに関する知識・技術の向上

ネパールの障害当事者リーダーの、障害者のエンパワメント(ピア・カウンセリング、自立生活プログラム)を実施する上で必要な知識・技術が向上する。

 

成果2:被災障害者のエンパワメントと自立生活の基盤整備。インクルーシブ社会の実現に向けた支援。

ネパール大震災で被災した障害者または新たに障害者となった人たちが、障害当事者リーダーによるエンパワメント研修に参加し、その一部が介助者サービス等を受けて地域で自立生活を実践する体制が整い、誰もが社会参加し自己実現を図ることができるインクルーシブ社会の実現、又、社会の構成員となる。

成果3:震災の復興プロセスにおける「障害(者)の課題」の主流化

ネパール大震災の復興プロセスにおいて「障害(者)の課題」が顕在化され、ネパール国政府の復興計画・政策・プログラム等に「障害(者)の課題」を加えるために公式な場において議論がなされる。

 


平成2016年10月12日~2019年10月11日  事業終了報告書

セル1 セル2

1-1 協力の背景と概要

ネパールでは約2,650万の人口のうち1.6%が何らかの障害を持つと言われているが、山岳地の地理的・経済的に困難な状況、障害者に対する差別や偏見などが根強いこと、また障害者が受けられる福祉・保険・教育・就労等のサービスも非常に限られることなどから、障害者の社会参加は依然として進んでいないのが現状である。

 このような困難な状況下、日本のダスキン「アジア太平洋障害者リーダー育成事業」に参加した障害当事者リーダーが中心となり、2006年、首都カトマンズにネパール初となる障害者

自立生活センター(以下CIL)「CILカトマンズ」を設立し、障害者のエンパワメントと権利擁護、アドボカシー活動等を推進してきた。2009年にはポカラにも「自立生活協会ネパール」が設立され、そこからもダスキン研修生が輩出されるなど、ネパール国内のダスキン元研修生が連携しつつ、国内のリソースを活用し、また日本各地のCILから技術的・資金的支援を受けながら、国内の障害当事者運動を活発に展開してきた。提案団体でも、ポカラのダスキン研修生を一時期受入れたことが契機となり、2014年から全国自立生活センター協議会(JIL)九州ブロックのCILを中心に自立生活協会ネパールの障害当事者運動に対し、資金援助を開始していた。そんな矢先、2015425日にネパール大震災が襲い、カトマンズを含む14の郡で甚大な被害がもたらされた。障害者のうち36名が亡くなり、2,000人が被災したと言われているほか、全体で22,000人を超える負傷者のうち、600人が脊椎損傷を負ったとされる。このような被災者は、新たに重度障害を負い、これなでの生活が成り立たなくなるだけでなく、差別や偏見の強い社会で障害者となった自分を受容し、新しい人生を踏み出していくという、非常に困難なプロセスを伴う点で、特別な支援・介入が必要となる。ここでは、障害のある人同士がお互いに話し合い励まし合うことで相互をエンパワメントする手法であるピア・カウンセリングや、障害をもった人が日常生活の様々な場面で必要となる技術や体験的に獲得するとともに、社会的障壁の除去のための取り組みを実践するために、同じく障害を持つピアの力を借りて実施する自立生活プログラム)などが非常に有効である。2005年パキスタン北部地震の際の障害当事者による復興支援でも、特に脊椎損傷を負った被災者を対象に、ラホールのCILマイルストーンの障害当事者によりピア・カウンセリングやILPが実施され、被災障害者のエンパワメントや地域生活への円滑な移行につながるなど、その効果が示されている。障がいのあるピアによる支援は、専門家(障害のない医療従事者等)による指導と異なり、実際の地域生活における実践に根ざしている点で、より具体的で、目で見てわかりやすい利点があるほか、人生の半ばで突如脊椎損傷を負った人の苦悩や困難を心から分かち合えるのは当事者が最適任であることは説明の余地がない。

CILカトマンズ、CILラリトプル、ポカラの自立生活協会ネパールでは、現在でも障害者のニーズに応じてピア・カウンセリング、ILPを実施しているものの、実施する上で必ずぶつかる壁(困難な事例に対峙する際のピア・カウンセラーとしての技量、自らの生活形態と異なる人のILPにおけるアイデア・創意工夫の能力等)を乗り越えるためには、継続的な研修受講や技術による知識・技術の向上が欠かせないため、今回の震災の被災障害者に対する支援を実施する上で、東日本大震災における被災障害者支援をはじめとする長年の経験の蓄積のある本邦からの技術支援が必要である。今回のネパール大震災で各カウンターパートの障害当事者らは、自らも被災し仮設の避難所で暮らすことになったにも関わらず、より被害が大きい地区で被災した障害者や、新たに障害を負った人たちに対する緊急援助を、震災直後より自主的に開始した。これに共感した日本全国の障害当事者らも街頭募金等で資金を集め、1ヶ月で200万円を超える募金を、JILを通じて現地に送り、救援物資等の購入等に充てることができた。今後も復興に向け長期的な支援が必要となってくるため、提案団体はJILDPIを通じて日本全国のCILと協働しながら長期的支援の方向性を検討していく予定ではあるが、残念なことに日本国内ではネパール大震災への関心が次第に薄れてきていることから、募金による資金調達の継続には限界がある。また、他の開発途上国同様、ネパールでも、平常時より「障害(者)の課題」は開発課題の主流から外れており、障害当事者運動ではアドボカシー活動等を通じて、開発プロセスに障害当事者が参加できるよう求めていた。今回の震災の復興プロセスにおいても、障害当事者組織がドナー会議等でアドボカシー・ロビー活動を活発に実施しているものの、インフラ等の復興が最優先される中、被災障害者の課題は隅に置かれてしまう傾向にある。仮に当事業が実施されない場合でも、ネパールの障害当事者は被災障害者に対する支援を継続する予定ではあるが、資金的困難から支援規模(受益者)が極めて限定されるほか、支援にかかる技術力不足もあるため、本事業で日本の経験を踏まえた技術的支援を行い、効果的・効率的な支援を広く実施することにより、被災障害者の困難な状況の早期解決につなげたい。また、当事業が実施され、アドボカシー活動を通じて震災復興における被災障害者の課題に焦点が当たり、復興計画・政策・プログラム等を議論するプロセスで「障害(者)の課題」も議論されることとなれば、本事業終了後も、ネパール政府または他の援助機関により、別の形で被災障害者に対する支援が継続されることが期待できる。また、今後ネパール国内において発生するかもしれない災害時においても、今回の事例が前例となり、より容易に「障害(者)の課題」に対する取り組みが進められることにより、災害時に最も脆弱な状況に置かれる障害者の災害リスクを少しでも軽減できるようになると想定される。同時に、本事業の実施を通じて各カウンターパートのプロジェクト実施能力が向上するとともに、JICA事業を実施することにより社会的な信頼性も高まり、今後各カウンターパートが政府または他の援助機関の援助を獲得できる機会自体が向上することが期待できる本事業による協力を通じて、災害大国である日本からの技術支援を伴った、ネパールにおける震災復興時の障害当事者による被災障害者のエンパワメントと主流化の取り組み手法がモデルケースとして示されることにより、今後ネパールだけでなく他の開発途上国において災害が発生した際にも、本事業で適用された手法を活用・応用した障害当事者主体の復興支援の展開が可能になることが期待される。また、本事業の活動実施のため日本の障害当事者リーダーや若手障害当事者がネパールを訪問することで、提案団体であるCILにとって貴重な学びの機会が提供されることも追記したい。特に、ネパールのような開発途上国では、障害者福祉サービスがほとんど行き届いていない分、若手の障害当事者リーダーの活躍や、地域コミュニティのつながりが強く地域資源を最大限活用している点などは、障害福祉サービスの地域間格差が大きく若手の人材不足に悩む日本のCILにとっても非常に参考になる。

 

2 協力内容

(1)上位目標

ネパール国内において今後発生するかもしれない災害の復興プロセスにおいて、「障害(者)の課題」に対する取り組みがより容易に進められる。

 

(2)プロジェクト目標

ネパール大震災で被災した障害者または新たに障害者となった人たちが、地域で自立生活を送る上で必要な支援を、ネパールの障害当事者及び政府機関等から受け、生きる希望を取り戻す。

 

(3)アウトプット

成果1 【障害者のエンパワメントに関する知識・技術の向上】

・ネパールの障害当事者リーダーの、障害者のエンパワメント(ピア・カウンセリング、自立生活プログラム)を実施する上で必要な知識・技術が向上する。

 

成果2 【被災障害者のエンパワメントと自立生活の基盤整備。インクルーシブ社会の実現に向けた支援】

・ネパール大震災で被災した障害者または新たに障害者となった人たちが、障害当事者リーダーによりエンパワメント研修に参加し、その一部が介助者サービス等を受けて地域で自立生活を実践する体制が整い、誰もが社会参加し自己実現を図ることができるインクルーシブ社会の実現、又、社会の構成員となる。

 

成果3 【震災の復興プロセスにおける「障害(者)の課題」の主流化】

・ネパール大震災の復興プロセスにおいて「障害(者)の課題」が顕在化され、ネパール国政府の復興計画・施策・プログラム等に「障害(者)の課題」を加えるために公式な場において議論がなされる。

 

 

 

(4)活動

成果1 【障害者のエンパワメントに関する知識・技術の向上】

1-1   日本の障害当事者リーダーがネパールの障害当事者リーダー15名程に対し、エンパワメント等に関して直接指導・助言を行う。

1-2   障害者のエンパワメントに関する公開セミナーを実施し、日本の障害当事者リーダーが直接関係者の啓発活動を行い、ネパールの障害当事者リーダーに啓発手法、ファンディング等のモデルを示す。

1-3   ネパールの障害当事者リーダーが、他の障害当事者20名程度の育成研修(リーダーシップ養成研修、マネジメント研修)を実施する。

1-4   【インターンシップ交換プログラム】ネパールの若手障害当事者リーダー2名の人材育成研修を、日本で実施する。

1-5   【インターンシップ交換プログラム】日本の若手障害当事者リーダー2名の人材育成研修を、ネパールで実施する。

 

成果2 【被災障害者のエンパワメントと自立生活の基盤整備。インクルーシブ社会の実現に向けた支援】

2-1 大震災で被災した障害者または新たに障害者となった人の中から、エンパワメント研修への参加者60名を選定する。

2-2 選定された障害者のエンパワメント研修(ピア・カウンセリング、ILP)を随時実施する。

2-3 関心のある大学生等の中から介助者候補20名を選定し、介助者研修を実施する。

2-4 養成された介助者が、エンパワメント研修参加者の一部に介助者サービスを提供する。(パール政府との連携)

2-5 自立生活に必要な福祉機器・日常生活用具等の選定と、住宅改修等に関する助言を行う。(他機関との連携)

2-6 ネパール政府との連携がとれ、エンパワメント研修等にエンパワメント研修等に参加することで自力がつく。

 

成果3 【震災の復興プロセスにおける「障害(者)の課題」の主流化】

3-1 アドボカシー活動のための啓発素材(プレゼンテーション、ビデオ、パンフレット等)を開発する。

3-2 啓発素材を用いてアドボカシー活動を実施する。

3-3 日本の障害当事者リーダーが直接アドボカシー活動を行い、後押しをする。

  

. 評価結果 

妥当性(Are these the right things to do?)

 大震災で被災した障害者または新たに障害者となった人たちに生きる力、障害があっても地域社会の一員として自立した生活が送ることができる社会の実現に向けた活動をカトマンズ、ポカラ、そしてカトマンズに隣接したラリトプルにて政府、行政、市、関係団体や市民に向け活動致した。201610月から開始した事業の中で、障害者当事者が力(エンパワメント)をつけるために必要なプログラムを実施しながら障害当事者のリーダー育成に力を入れた。また、プログラムを進めていく過程において、震災で脊椎損傷になり歩くことができない。車イスもなく家のベッド上で生活をする、介助者が家族だけで働くこともできず家の家賃を払うのもやっとの生活、ベッド上に座ったまま血行がわるく「褥瘡」になる、病院で治療を受けたいがお金がない等様々な問題点が浮き彫りになった。中でも怪我で脊損になり引きこもった生活で褥瘡になってしまうケースが非常に多く、障害当事者の悩みでもあった。そういった障害者が家から外に出る機会の提供の一つとして、カウンターパートによるエンパワメント研修参加の呼びかけ、障害当事者によるピア・カウンセリング1や自立生活プログラム(以下ILP2、本邦から専門家訪問時のアドボカシー活動にも参加することでエンパワメントにつなげることができた。

 事業開始当初は専門家、カウンターパートによる政府、行政へのアドボカシー活動を本事業で制作したDVD、パンフレットを利用し関係構築に向けて努力していたが、途中、ネパール国内の政治(行政体制)の変更に伴い振り出しとるものの、沢山の人との出会いが必要であるため継続したアプローチを行った。プロジェクト目標である「介助者サービス制度」確立までには障害当事者による交渉が必要不可欠であり継続することが大事である。

 

1ピア・カウンセリング:ピア・カウンセラー(障害者であり自立生活の実践者)とクライエント(障害をもつ相談者)が、現在置かれている状態について、どんな悩みやトラウマを抱えているのか、必要としているもの(障害に関する情報や知識など)は何か、ゴール(将来像)などについて話し合いながら、互いに励まし合い、最終的にクライエントが人生に対して力強い決定と理性的な選択ができる事を目指して行われるもの。また、障害者の権利擁護についても触れるなど、話し合いの内容は広範囲に渡る。

 

   2 自立生活プログラム:CILが掲げる「自立」の概念では、「自己選択」「自己決定」「自己責任」 

ができること(精神的な自立)を「自立」とみなしている。どこで誰とどのような生活をし、どのような人生を歩むのかを、自分自身で決めて自分自身で責任をもつ“生き方=「自立生活」を実践するにあたり、家事や移動、社会参加など生活上の様々な場面で、必要な介助を受けながら、自分らしく生きるために必要な知識や技術を提供する。

 

実績とプロセス(Are we doing what we said we would do?)

 ネパール大震災後、脊髄損傷で新たに重度障害者になった人や、もともと障害があり被災し、これまでの生活が成り立たなくなった人が数多くいる。家から外にも出れず家族も表に出さない、障害者は隠された存在であり時には戸籍すら入れられていない場合も多く、支援の手は行き届かない。社会に出ることも考えることがなくあきらめていた人がほとんどだった。しかし、本事業活動を実施して行くうちに「社会、地域にでてもいいんだ」「外に出たい」という感覚をもち、少しずつ社会で自立したいという意欲を引きだすことができたと考えられる。障害当事者本人の意欲、活動はもちろんのこと、政府機関へのアドボカシー活動も並行して行うことで、障害当事者の「エンパワメント」、利害関係者の意識が大きく変わった。プロジェクト目標はおおむね達成できたと言える。

 

 各アウトプットによる達成度は以下のとおり。

1-1   日本の障害当事者リーダーがネパールの障害当事者リーダー15名程度に対し、エンパワメント等に関して直接指導・助言を行う。

1-2   障害者のエンパワメントに関する公開セミナーを実施し、日本の障害当事者リーダーが直接関係者の啓発活動を行い、ネパールの障害当事者リーダーに啓発手法、ファンディング等のモデルを示す。

本邦より専門家の派遣を5回(20171月→16日間10月→16日間20188月→12日間20194月→14日間8月→14日間)現地(カトマンズ、ポカラ、ラリトプル)を訪問し、研修会を実施、本事業の説明と介助者サービス制度の必要性やバリアフリー化の推進等について伝えた。参加者数はカトマンズ213名、ポカラ270名、ラリトプル79名、累計は562名。

1-3   ネパールの障害当事者リーダーが、他の障害当事者20名程度の育成研修(リーダーシップ養成研修・マネジメント研修)を実施する。

20172回、20181回実施。参加者数はカトマンズ16名、ポカラ19名。

エンパワメント研修を兼ねた形でリーダーシップ研修を実施した。エンパワメント研修に参加した当事者が講師となり若手障害当事者の育成に努める。今まで、このようか研修に当事者が参加する機会がなく、開催当初は参加者に戸惑いもあったものの回数を重ねる毎に自分の意見を言える人も増えてきた。また、政府機関との会議に自ら積極的に参加するようになり情報の共有化にもつながった。

1-4   【インターンシップ交換プログラム】ネパールの若手障害当事者リーダー2名の人材育成 

研修を、日本で実施する。

1-5   【インターンシップ交換プログラム】日本の若手障害当事者リーダー2名の人材育成研修

を、ネパールで実施する。

   20171111日から1212日の間、本邦研修を沖縄県、熊本県にて行う。目的とし   

    て日本の自立生活センターの運動、ピア・カウンセリング、ILP等のエンパワメント研修  や介助者研修、アドボカシー活動に関する指導を行った。自立生活をしている障害当事者(筋ジストロフィー)気管切開、呼吸器を24時間使用し介助サービスを利用しながらアパートで生活している重度障害者宅を訪問した。介助者を使って家事や入浴、排泄等生活の様子を見て聞いた。どのようなサポートがあれば自立生活を行えるか学んだ。ネパールには公的な介護保障制度がないため、今後の制度設計のための明確な提言内容を考えることができた。沖縄県のアクセス(市内バス)の乗務員研修では新人乗務員に対してOJTを行った。障害当事者がバス会社社員と連携しながら研修を進めることで、交通機関のアクセシビリティについて共に学び、共生社会に向けて身近なところからのアドボカシー活動を再考することができた。公立小学校・幼稚園、私立大学の障がい学生支援室を訪問した。分離するのではなく、「障がいのある子もない子も」共に学ぶことの意義、それを実現するために今直面している課題を聞いた。ネパールの活動において、今後教育制度が整って行く際に、障がいがある子が特別な場ではなく、パブリックな地域の学校で他の子達と学ぶ環境を作るために障害当事者が率先して声を上げ、共生社会の実現に向けた運動へとつなげていくための話し合いを行った。また、学校の避難所としての機能も学び、耐震化など、今後ネパール教育機関にも当事者として伝えることの重要性を考える機会となった。バリアフリー化の促進については、公共施設の建物だけでなく、本邦研修時で滞在した段差がなく室内もバリアフリーの体験室や、トイレのドアを車いすでスムーズに移動可能な引き戸する様式は、ネパールでも取り入れてもらえるように政府、関係機関に提案した。熊本は、本事業実施前(2016414日)に大地震が発生した。大きな地震があった熊本において、障害者が中心に立ち上がり、被災障害者の支援を前線で活動してきたセンターを訪問し直接話を聞き、震災現場を見て、ネパールの復興に役立ててもらう目的で訪問した。ネパールの被災障害者が置かれている過酷な状況を今後打開していくための方策を得る。とくにニーズの掘り起こしという点で、これまで家の中でサービスを受けずに隠されてきた障害者たちのニーズをどう掘り起こすか、考えていく必要を感じた。障害当事者が足を運んで障害当事者宅を訪問していく意義について学んだ。本研修実施後、ポカラからの参加者は早速、自宅周辺のバリアフリー化をするなど動き始めている。また、平常時における個別の在宅訪問、ピア・カウンセリング、ILP、住宅改修や福祉機器の提供を継続して実施している。CILポカラは自立生活体験室の開所により自立を目指す障害者の拠点がスタートした。カトマンズからの参加者は在宅訪問を精力的に行いながら必要な支援(車イスの提供、褥瘡予防のエアークッションの提供等)引きこもり生活を余儀なくされてきた障害者の声を聴き、自宅でのピア・カウンセリングを行っている。そこでの声を、政府に対してのアドボカシー活動時に伝える活動をしている。20188月、日本の若手障害当事者がネパールを訪問、現地障害者宅にホームステイを行いながら現地スタッフを介助者としてお願いした。言葉も伝わらず、意思疎通もままならない中食事介助やトイレ介助等身の回りの介助お願いした。ネパールの障害者も日本の障害者が介助者を使った生活を見ることでイメージができた。また、ポカラでセミナーを開催、「介助サービス制度」や「アドボカシー活動」について討議した。ディスカッション、質疑でも自立生活についての話し合いが行われ、ネパールの障害者にとってエンパワメントの機会になった。(参加者39名)

 2-1 大震災で被災した障害者または新たに障害者となった人の中から、エンパワメント研修

への参加者60名を選定する。

2-2 選定された障害者のエンパワメント研修(ピア・カウンセリング、ILP)を随時実施する

   20161月、エンパワメント研修実施(カトマンズ参加者30名、ポカラ参加者51名)

    ピア・カウンセリングは随時(カトマンズ20名、ポカラ42名、ラリトプル36名)

ILP随時(カトマンズ3名、ポカラ7名、ラリトプル9名)

日本の専門家が訪問時にピア・カウンセリングを行い、必要な支援を行ったケースもあった。(相談者が脊損で褥瘡発症)再び訪問時にエアークッションを提供する。受講後の感想として、自宅から外にでることはありませんでした。体験室を利用して(ILP)を経験して介助者を使って支援を受けたり、他の障害のある友人からピア・カウンセリングを受けたりすることで人生に対する希望、自信を持つことができた。また、介助者を使うことで、日常生活で必要な支援、望んでいることがストレスなく実現できる喜びもILPプログラムを通してエンパワメントされた。自立生活までにはまだ時間と金銭的な問題はあるが今後はいろいろな活動にも積極的に参加したい。この活動は障害当事者から障害当事者へ広がり、本活動によって社会に出ようと前向きになる人たち、一度セミナーを受講した障害当事者がその後も継続受講する人たちも増加した。事業開始前は、基本的な介助サービス研修を受けたことがないため、障害当事者の指示で介助されることがなかったが、本活動を通して、障害当事者から指示の出し方、当事者主体の移動の方法、食事などを研修することにより、介助者を使うことで臨んでいることがストレスなく実現できた、これからの人生にこの経験を生かしていくとの声が聞かれるようになった。障害当事者自らの意思で行動することを一つ一つ積み重ね、自立活動へとつなげることができる。

 2-3 関心のある大学生等の中から介助者候補20名を選定し、介助者研修を実施する。

 2-4 養成された介助者が、エンパワメント研修参加者の一部に介助者サービスを提供する。(ネパール政府との連携)

学生を主体とした講習会、介助者研修を実施した。学生は今まで障害当事者と関わる機会がなく、研修を通して障害者への思いが変わったとの感想を持っていた。研修を受講した学生たちは学校にいる障害者とのつながりをもち、学校の中で介助を行う環境へと変化してきている。各行政機関も研修、セミナーの参加はあるが「介助サービス」の提供までには至っていない。今後も継続したアプローチが必要である。今まで基本的な介助サービス研修を受けたことがなく、ネパール独自の視点で行っていて、障害当事者の指示で介助されておらず、介助してあげているような感じであった。障害当事者自身も、移動の方法や食事など、指示がうまくだせないでいた。何度か研修を行う上で、細かな介助が必要なのは、健常者は無意識で体を動かすことで痛みを軽減できるがそれを介助で行うことの難しさを伝え、また、重度障害者(筋ジストロフィー)の場合は壊れた筋肉は回復がしづらく、心臓や呼吸器(肺)への負担をなくすため定期的に横になることが必要になるなど病気や症状に応じての介助の仕方を伝えることで、それぞれの状況に合わせた介助の仕方を学び実践することができた。

介助者養成講習受講者数(カトマンズ54名、ポカラ79名、ラリトプル16名)

 2-5 自立生活に必要な福祉機器・日常生活用具の選定と、住宅改修等に関する助言を行う。(他機関との連携)

    201612月、20171月、地震被災者に対して他機関(関西のメインストリーム協会)とも連携しながら車イス、トイレチェアー等の福祉機器や住宅についての助言を継続して行った。また、専門家訪問時に必要な福祉機器をリサーチ、障害にあった機器を提供した。ネパールの若手障害者が日本で研修を終え帰国の際にも福祉機器を持って帰ってもらい現地で必要としている障害者の方々に提供した。福祉機器を受けた裨益者は31名。車イス、褥瘡予防のエアークッション等。福祉器具を取り扱う店(日本)からサンプル等を譲り受けたり、日本で利用されなくなったものなどを再利用したりする形で今後も継続し現地が必要な物品について支援していく予定である。ネパール国内の動きとして、ラリトプル市が車イスを製造する資金(助成金)を出し現地で調達可能な資源を利用して修理、製造が始まった。※継続運営するためには政府に資金援助の要望、アドボカシー活動が必要不可欠である。

 2-6 ネパール政府との連携がとれ、エンパワメント研修等に参加することで自力がつく。

    CILの働きかけで社会開発省の車イス体験などエンパワメント研修に参加してもらうことはできつつあり、実際に行政機関が体験することは障害者の社会参加に向けての大きな一歩になる。連携を取ったり行政機関が自発的に参加することは難しいとされていたが20198月専門家訪問時にポカラで観光大臣と一緒に観光地のバリアフリーチェックを行ったり、今後のバリアフリー化の意見交換もできるようになった。また、カトマンズ市のディレクターと一緒にカトマンズ市を走る緑バス(車イスで乗車可能なバス)に乗車体験をして検証。少しずつではあるが障害者との距離は近くなりお互いに議論できる関係性は構築されたものの、まだまだ行政の腰の重さを感じる。

3-1 アドボカシー活動のための啓発素材(プレゼンテーション、ビデオ、パンフレット等)を開発する。

3-2  啓発素材を用いてアドボカシー活動を実施する。

   2015425日にネパール大震災が襲う。障害を負い通学できなくなったり、仕事を失ったりした人たちの声をビデオにまとめた。制作はカウンターパートが行った。20177月にDVD/パンフレット1000部完成。この素材を用いて政府、行政機関にアドボカシー活動を実施した。障害者目線でアクセス、制度設計を行う重要性を伝えた。日本から持参したDVDは、日本の重度障害者が介助者を使いながら地域で自立生活をしている様子が書かれた映像の素材である。公共の路線バスに実際に乗車している様子や町を電動車イスで歩いている様子はイメージしてもらいやすかった。障害者が必要とする制度などが政府や行政機関内部で議論されるように事業終了後も啓発素材を活用しアドボカシー活動を継続していく(アドボカシー活動参加者累計844名)

   ラリトプル市長との話し合いの際、障害当事者の声をとり入れていくシステムや、リフト車の購入、車イス修理工場、デイケアセンターが必要であり、これらについてカウンターパートが中心となり活動すること、それを政府としても支援しながら実行していく方向性について同意を得ることができた。障害当事者にとっても自ら赴き行政で意見する機会を得たこと、ネパール政府機関において実施した車イス体験や、ポカラの社会開発省職員が手を使って電動車イスを持ち上げた体験は彼らのエンパワメントに効果的な活動であった。

社会開発省においては、2019年度4月に再訪問した際に、庁舎にスロープが設置されているのを確認した。このスロープは2018年度、専門家訪問時において必要性訴え設置された。また、ガンダギ県における介助サービスのパイロットプロジェクト推進や、アクセシブルなインフラ整備、経済的支援と福祉機器の支援を約束した。

交通物理インフラ省では、日本の車イスユーザーが道路、歩道、地元の交通機関、ショッピングモールを簡単に使用していることを啓発素材にて提示。映像により言葉よりもアクセシビリティについて伝えることができた。今後、輸送のガイドラインを準備し、物理的インフラがすべての人にとってアクセス可能になるだろうと理解を示した。非常に前向きに関心を示し、今後も共同していくと約束した。

ラリトプルでは、政府に対するアドボカシー活動に関する協議を行った。障害者の権利、自立理念について伝えることができた。また、アクセスの必要性(バリアフリー)の重要性も議論された。(2018618日、参加者23名)

ポカラでは、障害者福祉予算の交渉やアクセスについて議論、専門家訪問時に観光大臣と一緒にバリアフリーの状況を確認することで観光地を訪れている外国人、観光地で働く人に対してもアピールすることができた。働く人の障害者に対する意識を変えることができた。観光大臣は今後もバリアフリー化の促進を約束した。

カトマンズ市のディレクターとは実際に緑バス(車イスで乗車可能)なバスに一緒に乗ることで普段使われていない、スロープの傾斜、道路状況の悪さ、運転手研修の必要性等の課題をディレクターと共有でき今後の課題も明確になった。また、乗車体験の様子はネパールテレビ(ニュース)で放送され一般市民にも課題共有することができた。

福祉サービスについては、根気強く継続して訴えていかなければならない。政府機関に対してのアドボカシー活動を行う際、事業開始前までは聞く耳を持ってもらえなかったり、門前払いを受けたりすることも多かったが、本事業でアドボカシー活動をする際、JICAの事業であることを伝えると容易に面会設定ができたり話を聞き改善をしようとする姿勢が見られた。これを突破口とし、今後も継続的にアドボカシー活動を行う礎を築いた。

 3-3 日本の障害当事者リーダーが直接アドボカシー活動を行い、後押しをする。

    事業開始当時、20171月に第1回目の専門家による現地訪問を行った。本事業の説明を伝えると同時に今後の障者当事者が地域で自立生活を行うための必要な支援の話し合いを持った。その際、自宅から出られない人などもおり、在宅訪問を行い説明した。「これからどうやって生きていけばよいのかわからない」「家から出る手段がない」「交通手段がない」「学校に通えなくなった」などという悩みを聞いた。専門家による被災障害者宅訪問を実施、ピア・カウンセリングを行った(随時)その際はカウンターパートも同行し、ピア・カウンセリングの手法を学んだ。20192月の国際障害者自立生活セミナーでは、日本から筋ジストロフィーの当事者が登壇、重度障害者の自立生活(介助サービス)等の必要性を訴えた。アクセス(ブッタ・エアー及び空港職員)に対して、プロジェクト実施前は搭乗の際、空港職員がおんぶする形であったため、車イスユーザーの搭乗に際し、技術を体験してもらった。タラップは片手の手すりを折りたたみ車イスのまま持ち上げることで、より安全でスムーズに搭乗することができるようになった。搭乗介助技術は習得できたが、まだ職員全員に認知されていないのも事実である。これからも継続して伝えていく必要性がある。

    ※アドボカシー活動実施回数15回、参加者数累計844

効果(Are we making any difference?

    プロジェクト目標は計画通り達成できた。プロジェクト開始前、障害者は社会と切り離さ  

    れ、自分の意思で外出することや手段もなく、自宅で過ごすことが多く介助は家族が行うものという認識があった。しかし本事業を行うことで、実家以外「自立生活」を地域で行うこともできることを知った。夢にも見たことがなく想像すらできない未来像を考えることができるようになった。今まで、家族に依存していた生活が自分のやりたいことが自分の意思で実現できる喜びも知り、参加して初めて、笑うことができた、自分らしく楽しんで生きられるということを学んだ。「エンパワメント」された障害当事者が声を上げ、参加者は口コミで広がりを見せ、セミナー参加者が政府機関へのアドボカシー活動を行うようになった人もおり、必要な支援を障害当事者が訴えることができるようになった。延べ人数844名の障害当事者が本事業の活動に参加しエンパワメントにつなげた効果は大変大きいと考える。

    本事業活動では、バス会社や航空機関などで現地職員向けに介助研修を行った。介助研修を行ったことで各交通機関にとってもCSR活動の実績をアピールすることにつながった。本邦研修(インターンシップ交換プログラム)では沖縄県内の2大新聞に大きく報じられたことで、本事業及び活動も大きく県内市民に広報されることとなった。

 

持続性(How sustainable are the changes?)

    各カウンターパートに調整員を置き、事務局の責任体制の下で事業を進めてきた。ネパール国内の交渉時にもカトマンズCILが先頭に立ち交渉を行った。カウンターパート同士の情報共有体制はあるが、まだまだ弱いと感じる。どの団体でもいつ何の事業がおこなわれるかの情報は共有できるようにし、国との交渉時などは合同で行うことが必要と考える。行政、市で考え方が異なるため統一した意見が必要。地域格差が起きる要因の一つでもある。カトマンズでの活動時はリフト車が導入されたことで、移動に関しては困難さは大きく軽減されてきた。活動地区が近隣の場合はリフト車を使用することで社会のアピールにもつながった。今後は、アドボカシー活動や本事業で経験した活動を軸に運動を継続して将来の「介助サービス制度」確立を目指してほしい。受託団体も継続したサポートを行って行きたい。

 

 

3.市民参加の観点からの実績

JICAが市民参加事業の意義として草の根技術協力事業へ求める「国民等の協力活動の助長促進」の観点から、本事業実施により貴団体を通じ得られた実績となる事項を記載します。

 本事業実施にあたり下記の広報活動を実施致しました。

  草の根事業報告会

県内で草の根技術協力事業を実施している団体との報告会に参加。事業内容の説明、進捗状況を伝え。意見交換をおこなった。

 

  沖縄県内の新聞掲載

沖縄にネパールから若手障害当事者を招集し1ヶ月間研修を実施した。研修プログラムの中にバス会社の乗務員研修を入れた。その研修の様子が沖縄県の新聞に大きく取り上げられ広く県民に周知することができた。

 

  JICA沖縄にてパネル展開催

本事業内容をJICA沖縄内でパネル展を開催する。事業で作成したDVDを流して活動写真を掲載。誰もが目に留まる場所でネパールの障がい者がおかれている現状を伝える。

 

  日本で行われた障害者団体の会議で、草の根技術協力事業実施の説明を行い、他団体の賛同も得ることができた。

 

  本事業活動状況が現地ネパールの新聞、TVニュースに取り上げられ日本のみならず現地でも広くアピールすることができた。

 

 

 

 

4. グッドプラクティス、教訓、提言等

当該事業の向上、類似プロジェクトや草の根スキームの改善、関係者とのパートナーシップ構築等に向けたコメント、教訓、提言等を記載します。

 障害当事者自らが活動することが必要だと感じる。障害があるからあきらめるのではなく、どのようなサポート、支援があれば目標を達成できるのか等を考え行動に移す。専門家を現地に在中させることが困難(体力的、予算的)テレビ会議等でコミュニケーションを取ながら関係性を保つ努力は当然であるものの認識のズレで方向性を誤る時等、現地訪問予定を変更し直接会い話をすることの重要性も改めて知った。本事業は物を作り成果を上げるものではなく、「人とのつながり」お互いを知り、認め合える関係の重要性を再認識する機会となりました。

 

平成29(2017)年1月 ネパール現地訪問

1月の半ばから約2週間、プロジェクトとしては第一回目のネパールの現地訪問。

訪問先は首都・カトゥマンドゥ、第二の都市・ポカラ。

それぞれ、政府の省庁や地方自治体の役所等を訪問し、今後のプロジェクトの進め方や将来の展望について説明。

また、カトゥマンドゥとポカラにある自立生活センターをそれぞれ訪問し、今後プロジェクトがどのように進行していくのか、研修の内容の進め方や、関係機関との連携の方法なども確認し説明を行った。


平成29(2017)年10月 ネパール現地訪問

10月9日より2週間程度、第二回ネパール現地訪問を行った。

今回の目的は12月の日本国内での研修で受け入れをする研修生の選抜、地震被災地の見学ならびに被災者との面談、センターとの打ち合わせ、ポカラの自立生活体験室の視察等を実施。

また、日本大使館とJICAネパールにプロジェクトの進行具合と、今後の進め方について報告を行った。

≪ カトゥマンドゥでのワークショップ ≫

≪ ポカラ自立生活体験室 ≫


平成30(2018)年8月 ネパール現地訪問


          平成31(2019)年4月 ネパール現地訪問


           平成31(2019)年8月 ネパール現地訪問